病院の日陰に陰キャは佇む

医者1桁年目の内科医が日々思った事を書いています。気づいたら結構毒吐いてるの注意

ググってもカスの時代

Twitterで膣洗浄すると避妊になるという100%の嘘情報を流している医学生(自称)がいるようで昔なら「釣り乙」で済んでいたところだが,近年のデマの拡散速度には驚かされるばかりであり少しでもなんとかならないかと思いこのような目に見えたものはNO,と書くようにしている。

以下がその問題のツイート群。
はっきり言うが大嘘なので信じてはいけない



医学生というのも大嘘だと思うが,この手の炎上狙いかまちょ野郎には犬の糞を1週間連続で踏むぐらいの呪いをかけたいところだ。
ということで今回は医療に対するデマの話。

SNSにおける誤情報

2018年11月14日のJAMA(The Journal of the American Medical Association)誌にViewpointとして以下の記事が掲載された。タイトルを訳すると「ソーシャルメディアにおける健康関連の誤情報へ対処するには」といったような訳になる。
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2715795
chromeの翻訳機能使うと意外ときれいに訳してくれるので時間がある人は原文と照らし合わせながら読んで頂きたい。段落毎にかいつまんで記載した。

  • ソーシャルメディア側も日々フェイクニュース等に対処しようとしているが,医療も誤情報の波に直面している
  • タバコ,酒,代替療法等々に対する誤情報は公衆衛生に悪影響を与える。例として2014年のエボラ出血熱の蔓延や反ワクチン運動など
  • サイロ化,エコーチャンバー効果により誤報はさらに広がる。信念やバイアスにより情報はサイロ化し異なる視点は入らずエコーチャンバーで増幅される。ここら辺は社会学習や異なる視点を与えてみるような試みを用いると軽減できるかもしれない
  • 誤情報はやはり広まりやすい。5人に1人が懐疑論を信じている
  • 臨床家がこれらの誤情報に対応する術は確立されていない。医療、公衆衛生、社会科学、およびコンピュータサイエンスの専門家が協力する必要がある。*1
  • 反ワクチンや新しいタバコ関連の製品,奇跡のナントカ治療的な話は広がりやすい。データマイニングソーシャルネットワーク解析などでサーベイランスをおこなうべきである
  • 誤情報への感受性はSNS,社会文化的アイデンティティ,価値観,訴える側の感情(特に怒りや恐怖を煽るもの),訴える側のメッセージに製品の販促や陰謀論等が背景にあるかどうか等で変わってくる
  • ロシアのbot(!)のような,論争を生み出し正当化しようとする試みは特定の地域社会に懐疑心や不信を引き起こす可能性がある
  • 介入の閾値を決定するために特定の集団(例えば、誤情報に最も脆弱なコミュニティ)に対するメッセージの到達範囲と健康影響を評価するような事が必要。アイトラッキングとかfMRI等でこのような誤情報にどう反応するか見てみる研究も必要そう
  • 介入と方法に関してはまだ確率していない。エビデンスに基づく健康情報を維持する方法,臨床医・信頼できるソーシャルメディアインフルエンサー・業界リーダーの間のパートナーシップ,リテラシーの養成などをどう行うべきか。
  • 科学リテラシーへの広範な投資と医療への信頼の涵養は、ソーシャルメディアに関する誤った情報の個々の部分を訂正または修正しようとする試みよりも、体系的な改善をもたらす可能性がある(個々の撃破も必要なのだろうが,やはり全体的な戦略が必要)。
  • SNSで健康に対する誤情報に晒されている,誤情報を信じている患者と継続して対話するための医師に対する支援が必要
  • SNSプラットフォーム上の情報の信頼性を検証するためのメカニズムを開発し、実装することも不可欠


長い。が,結構突っ込んだ内容ではある。気になったのはエコーチャンバー効果などで情報は増幅されさらに広まるがこのエコーチャンバーを解除する方法は中々根気がいりそうな点。話を聞かなくなった人に話を聞かせる労力はすさまじい事が容易に想像できる。また,デマに対応するためには医療業界やSNS側全体の総力戦が必要になるだろう。ただし全体的な戦略を立てる必要があるものの戦略を描く人間もいないのが困った点である(政策レベルでやるべきだが首相自身が親学なぞ信じている国なので難しいだろう)。

現時点で我々が出来ることは正しい情報を発信していく,デマにはデマと言う,辺りだろうか。
しかしながら反論はどうしても攻撃的と受け取られるので難しい。特に本邦においては意見の否定≒人格否定のように捉える文化なので余計に一悶着を起こす。

ググってもカスの時代-1

正しい情報を発信するにしても個人個人では限度がある。検索サイトで検索をかけると公的機関が作成している健康情報サイトよりも先にうさんくさいサイトが出てくる事がざらにあり「ググってもカス」,つまり検索しても正しい情報にたどり着けない時代である。
ググってもカス,に関しては以下のサイトを参照していただきたい。WELQ問題をきっかけにキュレーションサイトの問題が浮上しgoogle等の有名どころも対処しようとしているらしいが,今でも検索エンジンにおけるかなり困った問題である。
wedge.ismedia.jp

また,デマサイトSEO対策されている事が多いのも問題である。特に広告収入を目的としたデマサイトはアクセス数が死活問題でありとにかく何でもいいからリンクを踏ませるように色々と策を練っている。
とにかく現状では正しい情報にたどり着くための知識が必要となっている。

文章を理解できない人達

ちょっと前に話題になった記事である。
lite.blogos.com

世の中には「簡単なこと」が出来ない人達が沢山いるという話だが,選挙結果を提示したうえで「得票数が最も少なかった候補者は誰ですか」という質問に答えられない人達がいるという事に当初驚いた。
SNSで医療者を見ると瞬間湯沸かし器になって突っ込んでくるどう見ても中身読んでないだろ,と思ってしまう人達が一定数いるがこの人達は読んでいないというより読めないのだろう。読めないから特定の属性や特定のワードに反応して突っ込んでくるしかなくなるのではなかろうか。このような集団は「ググってもカス」になってしまう確率が高くなるだろう。

また,

レベル2だと、「HPを見て、運営者に問い合わせるにはどうしたらよいですか?」といった質問です。そして、問い合わせ先を見つけられない人が日本で約3割、OECDの平均だと4割を超えています。

レベル4だと難易度348点で、日本人だと2割が正答し、OECD平均だと1割しかいない。レベル4は、本のリストの中から、ある特定の主張に対して、「賛成でも反対でもなくいずれも信頼できないというスタンスのものを選べ」という問題です。これは、そこに書いてある解説を読めれば答えられるじゃないですか。でもそれができる人って、日本人で2割、世界で1割しかいないんです。

との記載がある事を考えると「ググってもカス」になってしまう集団は恐らく医療者の想像より大きく,医者の説明が理解できる人間は1割いるかどうかのレベルと思われる*2

ググってもカスの時代-2

思ったよりもこのネット社会で正しい情報にたどり着くのは難しいようだ。「ネットで調べてきたけど云々」と言う人達が病院でトンチンカンなことを言うのもやむなしかもしれない。ただ,やむなしといってデマの氾濫を許してはいけないのも事実である。時間はかかるが,デマを排除し正しい情報を提供するためにはやはり丁寧な対話しかないのではなかろうか。
まあ,目に付いたデマに関してはこれからもデマと指摘します。

*1:しかし本邦においては社会学者とか科学コミュニケーションの専門家が総じて科学の「か」の字も分かっていない人達で占められている。この点に関しては言い切って差し支えないと個人的に考えている

*2:平易な言葉を使うべきなのだが専門用語バリバリの説明をする医者が後を絶たない。人のことを言えない部分もあるが,週に1回は「その説明じゃ分からんやろ・・・」という場面に遭遇している。最も,専門用語を使うと喋る量が減るので楽なのだが。