病院の日陰に陰キャは佇む

医者1桁年目の内科医が日々思った事を書いています。気づいたら結構毒吐いてるの注意

キャベツ湿布

未だに根強く信仰されているキャベツ湿布というものがあるらしくTwitterで時折目にしてその度に('A`)ウヘァとなっているのだが,ある時キャベツ湿布でgoogle検索してサイト巡りをしていると「この研究では・・・」とこの文献が紹介されていたので少し読んでみた。

専門的な内容にはなっているが,結論から言うとキャベツ湿布の優位性はないのでご安心を。興味あったら一読くださいな。



その文献がこちら。全文フリーで読める。2008年のpublish
www.ncbi.nlm.nih.gov

この雑誌は初めて聞いたがHPを見ると家庭医学とか公衆衛生とかその辺を扱う雑誌らしい。peer-reviewとも謳っている。インドの雑誌との事
Indian Journal of Community Medicine (IJCM): About us

まずはAbstractを読む

本題。まずはAbstractをざっくりと

  • 目的

breast engorgement(コクランにしたがって乳房緊満と訳しておく)において「キャベツの葉による冷却」と「加温と冷却による圧迫」の二つを評価,比較する

  • 方法

準実験的研究として計画。全インド医科大学ニューデリー校に併設された附属病院産科病棟での検討。
30人ずつのグループに分けて介入群をキャベツに対照群を加温と冷却に割り付けた。介入前後の乳房緊満と疼痛の度合いを記録し解析

  • 結果

どちらのグループも緊満の度合い,疼痛共に改善した。(P ≤ 0.001)
乳房緊満の改善は両郡で有意差なし (P = 0.07)
ただし,疼痛の改善に関しては加温+冷却群の方が有利(P ≤ 0.001)

  • 結論

キャベツも加温+冷却も有効。疼痛改善には加温+冷却の方がより効果的である。






わざわざキャベツ貼らなくてよくね・・・・?



中身をさらに読む

中身をもう少し読んでみる。意訳して端折ってあるのできちんと見たい人は英語読んでね

  • Introduction

breast engorgement(うっ滞で留まっていて化膿までしていないレベルの乳腺炎が解釈としては近いのではないだろうか)に対してはカンガルーケアだの飲水量の制限だのキツいブラで締め上げたりだのなんだのをやってきたがキャベツに関しては研究が少なすぎていいのかどうかよく分からないのが実情のようだ。

  • Materials and Methods

準実験的研究として計画。2006年5月から12月の間で60名を対象にした。

・適格基準
出産後でbreast engorgementがある母体
研究に参加する意志がある

・除外基準
サルファ剤アレルギー キャベツアレルギー
乳汁分泌を抑制する薬剤を使用している
感染がある,膿瘍がある,乳腺炎,皮膚が荒れている,乳頭から出血がある,亀裂がある

インフォームドコンセントを取得し,個人情報や産科的な情報を記録
研究は2相からなっておりまず対照群30名を最初に評価。43-46℃のスポンジと10-18℃のスポンジを1-2分毎に交換。20分行った。
次に介入群30名に対してキャベツを施行。20-30分前に冷蔵庫にキャベツを入れてそれをブラの内側にセット。30分冷却
どちらの群も1日3回,2日間連続で行った。
緊満の度合いの評価には以前に考案されているスケールがあるらしくそれを使用。
疼痛はペインスケールで測ったと記載されているのでVASの様なものを用いたと思われる。
データ集計にはExcel,解析にはSTRATAというソフトを使用。
ざっと見たところサンプルサイズの決定に関しては特に根拠がない様子。

  • Results

母乳栄養の状態以外は背景に差はなく(カイ二乗検定,Fisherの正確確率検定),これに関しては一般化推定方程式で補正した。
施行前の2群間にbreast engorgementと疼痛に差は見られなかった(t検定)。
2群間の治療後のスコアと,それぞれの群での治療前後のスコアを比較するために一般化推定方程式を使用(これがいいのかどうかはよく分からん)。
結果としては最初に書いたとおり。ただ,Table2の95%C.I.の意味が何の信頼区間なのか分からなかった。

  • Discussion

2001年にコクランから乳房緊満に対してどうするべきかというmeta-analysisが出ておりこれを参照して研究を計画したとの事。現在は新しいバージョンが出てこの当時参照したものは撤回されている。abstractは読めたので以下一部引用。

Treatments for breast engorgement during lactation. - PubMed - NCBI

MAIN RESULTS:
Eight trials, involving 424 women, were included. Three different studies were identified which used cabbage leaves or cabbage leaf extracts;. no overall benefit was found. Ultrasound treatment and placebo were equally effective. Use of Danzen (an anti-inflammatory agent) significantly improved the total symptoms of engorgement when compared to placebo (odds ratio (OR) 3.6, 95% confidence interval (CI) 1.3 - 10.3) as did bromelain/trypsin complex (OR 8.02, 95% CI 2.8-23.3). Oxytocin and cold packs had no demonstrable effect on engorgement symptoms.

REVIEWER'S CONCLUSIONS:
Cabbage leaves and gel packs were equally effective in the treatment of engorgement. Since both cabbage extract and placebo cream were equally effective, the alleviation in symptoms may be brought about by other factors, such as breast massage. Ultrasound treatment is equally effective with or without the ultra-wave emitting crystal, therefore its effectiveness is more likely to be due to the effect of radiant heat or massage. Pharmacologically, oxytocin was not an effective engorgement treatment while Danzen and bromelain/trypsin complex significantly improved the symptoms of engorgement. Initial prevention of breast engorgement should remain the key priority.

Three different studies were identified which used cabbage leaves or cabbage leaf extracts;. no overall benefit was found

と記載されているがConclusionではCabbage leaves and gel packs were equally effective in the treatment of engorgement. となっている。どうしてこの結論になったかは不明だ・・・。
ちなみに新しいコクラン*1では,色々とやっていることは効果があるかもしれないがどの研究もエビデンスが不十分で結論は出せないとの記載。

  • Conclusion

特に目新しい情報はなし

感想

エビデンスの質が高い研究がないのでどうしても民間療法的なものが入り込む余地が大きいのだろう。ただ,わざわざキャベツ貼るよりは普通に冷やした方が楽だしキャベツが特段良いわけではないでしょうね。日本なら保冷剤簡単に手に入るしお湯も給湯器から出せるし,でキャベツの優位性全くないと思いました。「キャベツ貼らないから乳腺炎起こすんだ!」と怒る人は他人に呪詛を吐くしょーもない存在なのでシカトしましょう。