病院の日陰に陰キャは佇む

医者1桁年目の内科医が日々思った事を書いています。気づいたら結構毒吐いてるの注意

病院再編構想

以前から日本では病院とベッド数が諸外国と比較して多すぎるという話があり,財政悪化や働き方改革*1も伴って病院・病床数削減が近年議論されている.
今回は厚労省がある程度考えた結果,この病院は再編対象ではないかというリストを作成しそれを公表したというものだ.
www3.nhk.or.jp


まだ理解は追いついてないが,とりあえず見てみようと思う

現在の状況

以前にも書いたが日本は諸外国と比較してベッド数が多い事が指摘されている.状況は以下を参照していただきたい.
たまに書きたくなる日本の医療の話 - 病院の日陰に陰キャは佇む


医療費の増加は全世界共通の問題でありどの国でもかなり手を焼いているのが実情で本邦も決して例外ではない.今まで診療報酬などで操作は行ってきたものの限度はあるため,機能が類似している病院をひとまとめにしようというのが今回の話だろう.また医療者の不足を緩和する目的もあるものと考えられる.
民間病院に関してはちょっかいは出しにくいが,公立・公的病院に関しては税制上の優遇もあり口出しする権利は多少なりとも存在するわけだ.

このひとまとめのためにH28年度に地域医療構想というものが策定され,二次医療圏の区域を基に医療圏(構想区域)を都道府県単位で策定されている.詳細は以下を,もしくは次で紹介する資料2を参照していただきたい.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080850.html
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000164337.pdf

リスト

今回発表されたリストは以下のページ内にある「参考資料」として閲覧可能である
www.mhlw.go.jp

ただ,いきなりリストを見ても分からないのでまずはその上にある資料1と2を見てみよう
資料1は要約すると以下の通りである.

  • がんや脳卒中心筋梗塞などの項目毎に診療実績を定める
  • 医療圏の人口規模毎に診療実績の水準を決めてその下位1/3を「診療実績が特に少ない医療機関」(A項目)に該当するものとした
  • 区域内で診療実績が類似した*2病院のうち自動車で20分以内の距離にあるものを「類似かつ近接」(B項目)した病院とした


また,資料2に関しては後半の参考資料も含めて以下の内容が記載されている.

  • 「診療実績が特に少ない」または「類似かつ近接」と認定されると「代替可能性がある」医療機関にリストアップされる
  • 人口100万人以上の想定区域では類似した医療機関が多数存在するため再度検証予定となり今回のリストアップからは除外
  • 代替可能性のある医療機関に関しては2020年9月を目処に再検証を行う
  • 離島などの僻地医療や高度急性期,救急や小児医療などの不採算部門を公的病院でしか担えない機能として重点化していく
  • リハビリや回復期は必ずしも公的病院である必要はない

考えられること

さて,資料1と2を前提においてリストを見てみるとそれなりに該当する病院は存在するが概ね急性期バリバリの病院は該当しておらず,然もありなんという印象である
したがって該当する場合は同じ地域に似たような機能の病院が多すぎて競合している,もしくは人口に対して病院の規模が大きすぎるということが考えられる.ただし,数で見ているので質は問われていない(概ね量と質は比例するが例外もある)し,指定された病院にしか特定の機能がない場合もある.つまり,どちらかといえば医師等が持つスキルの問題というよりも立地や経営の問題が大きく出ているように思われる.

また,再検証にリストアップされる=即再編ではなく,過去に設定した目標に達しているかを含めて議論するという方針であるのでここから医療機関側が何かしらのアクションを行う可能性もある.具体的には一点集中に切り替えると項目該当から脱却できる可能性が出てくるためで,特に心疾患・脳卒中(大腿骨骨折手術で救急項目を稼げるので整形外科も?)のシェアを獲得できれば類似する医療機関から抜けられる(正確には上位のグループを下位に引きずり込める)可能性がある*3

あとは100万人以上の想定区域内でどういう議論が行われるかどうかだろうか.100万人以上の想定区域内でも重複は存在するものと考えられるし,想定区域内の人口にかかわらずどのように統廃合を進めるかは地域住民や大学医局,上のポストに収まっている人達の納得も必要なのでかなり難航するであろう.
もう一つ思ったのは,車社会の地方では問題が生じるだろうということである.B項目の距離は自動車で20分以内の範囲で計算されているので高齢者の運転が問題となっている現状でさらに問題が加速しそうに思われる.都会の人々からは想像しにくいと思うが田舎には本当に公共交通機関が存在せず,病院に行くには歩くか自動車かしかない場所も多数存在しているため70代80代の高齢者が平気で運転しているのだ(そして車の側面が凹んでいることもしばしばある).


いずれにせよ議論はこれからである.

*1:医者は2000時間ほど使い倒しても問題ないらしいので正直(笑)感が否めない

*2:考え方が少し複雑なので元の資料に当たって頂きたい

*3:B項目でのシェアが上位グループの下位と1.5倍以内の差になれば「横並び型」となり上位グループの下位も類似した医療機関と判定される