病院の日陰に陰キャは佇む

医者1桁年目の内科医が日々思った事を書いています。気づいたら結構毒吐いてるの注意

たまに書きたくなる日本の医療の話

帰りが遅くなるとたまにファミレスで高いメニュー頼んだりドリンクバー付けたりして(しょぼい)豪遊をすることがあるのだが,最近サイゼリヤ飲みという言葉があるようにファミレスで飲める環境が出来つつあり非常に誘惑に駆られる。ただ,車通勤であるし家から歩いて行ける範囲にはファミレスがないので未だに実現したことがない。一度やってみたいものである。

メシが食える,時間帯にもよるが書き物や勉強で長居できる,ついでにアルコールも飲める,と考えるとこの価格帯にしては案外至れり尽くせりなのではないかと思う。

そして,同じような事が日本の医療に関しても言える。病院の仕組みを少しでも知ってもらいたいと思って今回は書いた。

医療サービスの仕組み

そもそも医療にかかる金額は莫大でありこれを一世帯だけで支払おうと思うととても払えたものではない。例えば日本で抗がん剤治療を行ったら実際の請求額は100万円程度までいく*1。近年は技術の進歩により医療機器や医薬品自体の価格が上昇しているためさらに深刻な問題であり実際にアメリカでは上位の自己破産理由に医療費が挙がっている。


それにも関わらず本邦で割と気軽に病院に行くことができるのは保険制度によるところが大きい。
大体どこの国でも保険機関にある程度お金を毎月支払っておくことで医療費が発生した際に保険機関が一部を負担するという仕組みができあがっている。保険機関は公的なものから民間サービスまで幅広いが,本邦はかなり公的なサービスであり,また,本邦は国民皆保険制度を採用しているため基本的に我々が支払う金額は実際にかかった費用の1~3割である。


よく「こんなにカネを取られた」と怒る人達がいるが,保険制度のない状況であれば3倍以上の金額を支払わなければならない。このことは中学の公民で習っているような気がするのだがどうもすっぽりと抜け落ちてしまうようだ。
さらに高額療養費制度という,世帯収入にもよるがある程度の上限に達するとそれ以上は支払いが免除されるという仕組みもあるため医療費で破産するということは諸外国に比べれば少ないはずであり,特に「貯蓄のある高齢者世帯」*2ではそうだろうと考えられる。


日本はフリーアクセス

日本だと調子が悪くなった時に医療機関を訪れ診察を受けるというのが一般的だが,諸外国はまず予約を取るところから始まり最短でも数日から一週間かかる。さらに大病院に紹介される場合,日本だと数日~1,2週程度で受診出来ることが多いが,海外ではさらに伸びる。特にイギリスではこの問題がかなり深刻化しており癌が見つかってから専門医を受診するのに半年以上かかるなんて事が起きている。


専門外来で1時間2時間待たされて吠えている人達が「海外では10分で~」の出羽守*3芸をやっているが,海外での待ち時間は「数ヶ月と10分」である。そこを勘違いしてはいけない。
どうしても耐えられない場合は救急を受診することになるがそれでも数時間以上待たされるのが通常であるため海外(特にアメリカなど)に住んでいる人達は風邪と思わしき場合は基本的に受診しない。家で休んで寝ておけの精神である。


日本人は入院が大好き

日本医師会総合政策研究機構というところが様々な各種データを元にワーキングペーパーを出している。
日本医師会総合政策研究機構


今回はここの「医療関連データの国際比較 -OECD Health Statistics 2018を中心に-」というワーキングペーパーを参照した.
このペーパーの「項目3.病床数」を見ると,日本の病床数は精神科病床を引き算しても群を抜いている事が分かる。

以降PDFを見ながら話を進めていく。

項目の説明だが,一般的な入院としてイメージされるのはこの一般病床という項目で,よく急性期と言われる。一方で寝たきりなどの長期入院は療養病床に該当する。


急性期病棟に関してはリハビリ病棟も合算されているため一概には比較できないが,回復期リハビリテーション病床や地域包括ケア病床が大体12万程なので*4を引いてもまだ本来の急性期病床はかなり多い。しかも平均して70%前後は埋まっているためかなりの人数が入院していることになる。つまり諸外国と比較すると入院のハードルがそこまで高くないのである。


ただし,これは医療側の問題だけではなく国民性による部分も多いと考えられる。美しい日本の社会では何かが起こると途端に責任問題が発生するため安全策を取りに言った結果であろうと考えられる。日本人全体もそれに納得してしまっているのだが,近年入院による害も少なからずあることが報告されており必ずしも入院がベターな選択肢ではなくなっていることを世間一般の人達には留意して頂きたい。例えば,入院するとベッド上の時間が増えるため単純に体力が低下する,といった具合である。


まとめ

こうみると日本の医療はかなり至れり尽くせりだと思うのだが,まあ頭のおかしい医者も一定数いるので案外釣り合いが取れているのかもしれない。
ただ,少なくとも世界的に見れば医療に簡単にアクセスできる国であるという事入院希望が通りやすい事は頭の片隅において欲しいところだ。

*1:例えば当科でよく行うR-CHOP療法は通常8万点超えで10万点にいくかどうかといったところだったと思う

*2:もちろん貯蓄のない世帯も多数存在する事は分かっている

*3:出羽守(デワノカミ)とは - コトバンク

*4:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000187049.html 入院医療(その8)を参照